ようやく第3回目の音声講義(コトダマ入門)の収録が終わりました。
この音声講義の内容を簡単に紹介しておきます。
(1)まず、日本語は古代語の響きが世界で一番保存されている言語であるということ。なぜそうなのかは音声講義で聞いてくださいね。
(2)日本語は本来「身体言語」で、身体の響きを口の中の響きに相応させて出来ているコトバであること。たとえば、窓を両手で押して開く動作をイメージしてみてください。その動作をコトバに置き換えると、たとえば『サーッとあける』ですね。この「サ」は、舌を歯の裏あたりに近づけて、息を舌と歯の狭い隙間を通って口の外の広い空間に出してゆく発音と響きですね。
ですから、窓によって閉ざされていた狭い空間を外の広い空間に向けて開放するという動作が『サーッ』という響きでよく表現されていますね。『ー』は、この動作が一瞬のものではなく、ある時間的な継続を伴う動作であることを示しています。
あるいは、重い扉を力を入れて開くような場合は、『ウンとあける』などと表現しますね。『ウ』は口を狭めて発音しますね。母音のうち、口を狭める発音の『イ』と『ウ』は集中音で(口を開く『ア』、『オ』、『エ』は外向音)、『イ』は意識の集中、『ウ』はエネルギーの集中です。『ウ』はお腹に響く音ですね。お腹に力を入れて手を「ウン」と押し出しますね。『ン』は、打ち止めで、力をダラダラと小出しにするのではなく、一気に押し出す際ですから、『ン』を使うのです。
このように、日本語では、身体動作と口で作るコトバが相応しているのです。最も近年はカラダ発でなく、アタマで作ってしまう、身体の裏付けがない軽薄なコトバが、残念なことには増えていますが…。
(3)コトバを言い放つと、そのコトバが「身」を共振させます。もともと、日本語のコトバは身体動作に相応して出来上がっている言語なので、日本語のコトバは「身体共振」が得られやすいのです。
(4)さて今度は、「身体」についての考察です。
日本神道では、ヒトには「身」が三つあるとしています。古事記の冒頭の造化三神は、ヒトが持っている三つの「身」を示しているということは、すでに何度もいろんな本で解説しています(『国生み記伝』バンクシアブックスなど)。
カミムスヒはヒトの「肉体」、タカミムスヒはヒトの「心体(心のカラダ)」、アメノミナカヌシはヒトの「世界体(世界全体が実はわが身)」です。
まず、コトバが言い放たれます(例えば「私はしあわせ!」)。
そのコトバの波動に肉体が共振をし始めるとします(アタマから発せられるコトバでは「身体共振」は得られません)。
すると、その肉体の振動にあわせて「心の体」が共振しはじめます。
この「心の体」というのは、分かりにくいかもしれませんが、霊的な体、アストラルボディといってもいいでしょう。決してボヤッとした抽象的な存在なのではなくて、すごく具体的で威力がある身体なのです。
そして、「心の体」に連動して「世界体」が振動を開始して、ついにあなたの発したコトバ「私はしあわせ!」があなたが住む世界に実現するのです。
「言霊」とは、コトバがイノチを持って、そのコトバが実現するまで作動し続けるというものですが、その実現までのメカニズムはこのように三段階の「身体共振」によるのだということが、今回の音声講義の構想を練りながら発見した一番の収穫でした。
(5)古代日本では、この3つの「身」を完備して使いこなせる人物が、為政者としてふさわしいとされていたようです。
魏志倭人伝には、倭(ヤマト)には「投馬(トウマ、またはツマ)」という国があって、その国の王は「ミミ」という、大臣は「ミミナリ」というと書いてあります。この「ミミ」が「三身」で、「ミミナリ」は「三身成就」ですね。そして、この「投馬国」は宮崎(日向)にあったとされています。
神武天皇は、宮崎から出発されて、苦闘の末、ついに大和に入って建国されたという話はご存知ですね。この神武天皇の3皇子のお名前すべてに「ミミ」が含まれています(タギシミミの命・カミヌナカワミミの命・カミヤイミミの命)。また大和には耳成山(ミミ成し山)がありますね。
神武天皇がいかに巧みに「心のカラダ」を駆使されたか、その実例は日本書紀に、タカミムスヒの神様をお招きして「ウツシ・イワイ」という祀りをされたということからもよく分かります。
音声講義でこのお祀りの説明をしています。この時代の天皇家では「タカミムスヒの神様」を中心にすえてお祀りされていたそうです。霊的な身体を司る「タカミムスヒの神様」に力強く働いて頂いて建国しなければならないという大切な時期であったから「タカミムスヒの神様」だったのでしょうね。
大和で建国されて、次第に安定期に入ってくると、天皇家の役割は国の安寧と繁栄を祈るという役割を果たされるようになったので、天武天皇の代あたりからは「アマテラスオオミカミ」を主宰神にされたのでしょう。
以上で「言霊」とはどういうものかという理論的なスケッチは仕上がったと思います。私の役割はここまでで、あとはどのようにすればコトバにイノチを宿らせることができるのか、その技法開発は後継の仲間の皆さんに託されることになります。よろしくお願いします。
技法開発にはさまざまな分野から参加してくださることを期待しています。たとえば演劇、武道、音楽(声楽)などの身体表現の部門の方々も参加協力してくださればいいなあと期待しています。
「コトダマ入門」 はこちらからお聴きいただけます
(註)DVD版の『立花大敬 音声講義大全集』にも「コトダマ入門」が収録されています。