ココロの慣性の法則

しあわせ通信(毎月1日・15日更新)

勤務していた学校の中学1年の学年通信に掲載された文章です。

  
物理学に『慣性の法則』があります。これは、『モノには現在の状態を続けようとする性質(これを慣性と呼ぶ)がある』という法則です。

たとえば、静止しているモノは静止状態を続けようとするし、運動しているモノは現在の速度(速さと方向)を維持しようとします。

これはモノの世界の法則なんですが、ココロの世界においても、なんだか慣性の法則もどきの法則があるように思えるので、そのへんの事を少し書いてみようと思います。

例えば、いったんテレビを見始めたら、予定の時間を過ぎても勉強に切り換えられなかったりして、グズグズしてしまうことがありますね。これは『ココロの慣性』のせいです。

物理の世界の慣性の大小は質量の大小で決まります。質量が大きいモノほど、押してもなかなか動き出さないし、いったん動き出したら、なかなか止められませんね。 

このように、ココロにも『質量もどき』があるようです。ココロが軽やかな人は何事にもグズグズしないで、パッ、パッと気持ちを切り換えて行動できますが、ココロの質量が大きく重い人は、決断が遅くて、歯切れのいい行動も出来ません。新しい状況にもなかなか適応できません。

では、『ココロの質量』は何で決まるのでしょうか。それは、『思い』です。『思い』が『重い』のです、といえば駄洒落のようですが・・・。

頭の中に、いつまでも思いが循環して止まらない人は、その循環の間にココロがだんだん重くなっていくのです。

江戸時代の事です。ある和尚さんが弟子とともに旅をしていました。川があって、きれいな女性が渡れなくて困っていました。和尚さんはその女性をおんぶして川を渡してあげました。

それを見ていた弟子は、ココロのなかで和尚さんを非難しました。『出家ともあろうものが女性と接していいものだろうか』、こんな風に頭の中で、ブツブツ非難していたのです。

そして、川を渡ってしばらくしてとうとう我慢しきれなくなって和尚さんに、これは出家として正しい行動でしょうかと質問しました。

すると、和尚さんは言いました。「なんだ、お前はまだ女性をおんぶしているのか」

このように、思いをいつまでも頭の中でモタモタさせることをやめて、『思い切る』練習をしましょう。

たとえば、廊下にゴミが落ちているとします。

そんな時はさっと身を動かして拾えばいいのです。

ところが、ここの清掃はどのクラスの担当だとか、自分の班の担当日でないから拾ったら損だとか、グズグズ思いを頭で循環させてしまいがちです。頭はとってもいいわけ上手なのです。

たとえば、朝6時に起床するとします。でも寒いものだから、グズグズいいわけを考えながらいつまでも寝床に留まろうとします。そんな思いの延長上に起床という結果はありません。『思い切って』起きたときが本当に起きた時なのです。

私も、若い頃はとてもココロが重い人間で(今もややココロの肥満タイプですが)、実行力が全くありませんでした。

そこで、風呂上がりに『一杯水浴び法』というのをはじめました。風呂場で一杯だけ水をかぶるのです。

毎回グズグズいいわけしてやめておこうとしますが、そういう思いを断ち切ってエイッとやるのです。

これがココロの贅肉落としにとても役に立ちました。今でも何か新しい行動を始める時は、あの思い切ってザブッとやった時の気合いを思い出して使う事が出来ます。

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