クーエさんの自己暗示法

しあわせ通信(毎月1日・15日更新)

本記事は「しあわせ通信176号」の内容を再編集して掲載しています。

『自己暗示』C.H.ブルックス/エミール・クーエ(法政大学出版局)というテキストがあります。原本は何と1922年出版で、それから現在にいたるまで何度も版を重ねて読みつがれているようです。

ブルックスさんが、フランスで自己暗示を用いてさまざまな病気の治療を行っているクーエさんを訪問し、その治療の実際を見学したり、クーエさんに治療法や理論を教えてもらって、それをコンパクトにまとめたのがこの本です。

クーエさんは1857年生まれ、ということは、まだ明治維新の十年ほど前で、日本では江戸時代ということになりますね。
ですから、クーエさんは『想いの実現法』については草分け的存在であるといえると思います。

クーエさんの理論は、私が到達した『想いの実現法』と、とてもよく似ていて、『なるほど、そうだ、そうだ』と共鳴できるところが多かったですし、『ああ、ここは気がつかなかったなあ。いいことを教えてもらった』と学べることもたくさんありました。

クーエさんは、患者さんを「自己暗示」によって治療するわけですが、「自己暗示」を「ある(好ましい)考えを潜在意識に伝え、それを現実化してもらう手法」と定義しています。

そういうことが出来るのも、潜在意識の能力がとても高いからです。

「意識」は、これから進むべき好ましい方向を指示することはできますが、それを現実化してくれるエネルギーも、智慧も、パワーもなくて、それらはすべて「潜在意識」が保有しているのです。

私は、クーエさんと違って、「潜在意識」と呼ばず、これを「心」と呼んでいます。

私はよく「タクシー」のたとえで、皆さんに説明するのですが、タクシーに乗って、目的地を指定するのは「意識」の仕事ですが、それを目的地にゴールインさせるという現実化を達成してくれるのは、先ず運転手さんの智慧ですね。運転手さんの頭には、すべての道やその時々の混雑状態などがことごとく収まっていて、「意識」が目的地を指定すると、一瞬のうちにゴールインまでの筋道を描いて車をスタートさせます。これが、潜在意識(心)が持っている勝れた智慧です。

しかし、いくら運転手さんの頭がよくても、もし、車にガソリンが充分でなければ、途中でストップしてしまい、目的地にたどり着けませんね。

しかし、潜在意識(心)には燃料切れということがなく、燃料は刻々いくらでも、必要なだけ、大宇宙から供給されるのです。これが、潜在意識(心)の無限供給のエネルギーです。

(注)ただし、「心(潜在意識)」から供給される燃料の多少は、その人が持つ「徳」の高低によって制限されてしまいます。西洋(フランス)人であるクーエさんは、ここの部分の考察が十分ではないのです。

また、燃料がたっぷりあっても、エンジンの性能が悪かったり、故障してしまったりしたらゴールできませんね。しかしご心配なく、潜在意識(心)のエンジンはけっして故障しません。

「意識」には、睡眠などの中断がありますが、「潜在意識(心)」のはたらきには一時停止はありません。ゴールインするまで絶え間なくはたらき続けます。これが、潜在意識(心)のフルパワーエンジンです。

クーエさんは、「意識」を騎手にたとえ、「潜在意識(心)」を馬にたとえていました。

禅では、水牛の背に乗り、その牛の歩みにすっかり身を任せて鄙歌(ひなうた)を歌ったり、笛を吹きながらゆったり進んでゆく人(童子)の絵がよく描かれます(十牛図など)。

これは、「意識」と「潜在意識(心)」がすっかり和解して同調し、想いのままに人生を歩めるようになった状態を示しています。

クーエさんは、自己暗示のプロセスを二つのステップに分けて説明しています。

(第1段階)潜在意識(心)に、ある「望ましい考え(目標地点)」を受容してもらう。

(第2段階)潜在意識(心)のはたらきを信頼して任せる(干渉しない)。

今日にいたるまで、潜在意識(心)に意識の想いを伝えて、その想いを現実化してもらうという方法をとる「想いの実現法」はたくさんあるわけですが、いずれも意識の想いを潜在意識(心)に、強引に埋め込もうとし勝ちになると思うのです。

クーエさんによると、このやり方は危ない場合もあるのです。

ある「希望する状態」(たとえば、ある病気が治って健康になるという状態)を潜在意識(心)に入れようとすると、それに抵抗する想い(これは難しい病気なのでとても治らないなどの想い)がどっと押し寄せてきて、その「希望する想い」が、潜在意識(心)に定着するのを邪魔することがあるのです。

それどころか、それらの抵抗勢力が潜在意識(心)に結集して、そっちの想いのほうが潜在意識の中で拠点を獲得して、ますます病気が重くなるというドラマを現実化してしまうこともあるのです。

クーエさんはこういう副作用があるので、無理やり潜在意識(心)に「想い」を押し込むやり方は危ないと言われるのです。

では、どうすればいいのか。それは、そんな抵抗勢力の想いが集まりにくい状態の時に、潜在意識(心)に「想い」を入れてやればいいのです。

それはどんな状態の時かというと、意識が消える睡眠状態と、抵抗観念が発生しやすい、意識がフルに働いている起きている状態とのはざ間(ウトウトしている状態)で、「想い」を潜在意識(心)に提供してやるといいのです。

そんな状態の時は、反対勢力がやって来ず、むしろ、その「想い」が達成したときの嬉しいイメージや同質の連想が次々引き寄せられて集まり、そんな仲間が、その「想い」の手を引いて潜在意識(心)のやわらかい、温かい土壌へと運び入れてくれるのです。

ですから、クーエさんは、夜寝る前、あるいは、睡眠から醒めかけた朝の寝床のなかで、「望ましい状態」を言葉にして繰り返し唱えることをすすめています。

もし、坐禅を習慣にしていらっしゃる方なら、このクーエさんの自己暗示法をもっと効果的に使うことができます。

坐禅こそ、この覚醒と睡眠の中間状態で、自己批判や、他者批判、世界批判が影を潜めて、一切を肯定する楽天的な気分になるのですから、その気分の中で、「こうしたいという想い」を短い、リズム感のある文章にして、繰り返し心に中で、あるいは声をあげて唱えればいいのです。

その時、悲壮感が生じてくるようであれば、それは抵抗勢力が強い状態の証拠なのですから、自己暗示はやめたほうがいいです。

唱えているうちに、ふんわかしあわせ感が生じて来るようでしたら、その「想い」はしっかり潜在意識の中に根付いて育ち、必ず実現します。

(第2段階)潜在意識(心)のはたらきを信頼して任せる(干渉しない)。

これについては、クーエさんはこのように語っています。

『いったん潜在意識に「考え」を送り届けたら、目標に到達するための方法をいちいち暗示する必要はない。目指す目標についての「考え」を心に満たしてやれば、潜在意識は、その目標にもっとも容易に到達できるコースを、我々のために敷いてくれる』

クーエさんは、晩年になると、ある特定の病気や症状を治癒させるという行為はやめて(副作用が大きい場合がままあるので)、「一般暗示」の指導を主にされるようになったのだそうです。

「一般暗示」とは、半意識状態(寝る前、目覚めた直後、坐禅中や坐り終わった直後など)で、

『これから毎日、あらゆる面において、一層良くなってゆく』と20回唱えるのです。

この方法だと、反対観念が生じにくく、副作用がなく、人生の全体が、気づけばいつの間にか改善されていたということになるのです。

最後に、クーエさんの言葉、『信頼をこめて唱えることが大事だ。唱え終わったら意識の役割は果たされたわけで、後は無条件で潜在意識に仕事を任せる。改善のきざしはまだかまだかと絶えず気を揉むなど無益である。種子が芽を吹いているかどうか調べるために、毎日土を掘り起こす農夫などいないだろう。いったん種を蒔いたら、若草が芽ぐむまではほうっておくよりない。あなたの意識が甘んじて潜在意識を信頼して放任するならば、結実の日はそれだけ早く訪れるだろう』

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