アタマ君とカラダさん

しあわせ通信(毎月15日更新)

ある春の日に長沙ちょうさ禅師は散歩に出かけられました。そして半日ほどして道場に帰って来られました。
弟子が質問します。「和尚、どこに行ってこられたのですか?」
「やあ、いい天気だったのでね、門を出てみたら若草のいい香りがして…、そのかおりに引かれて歩いていたら、今度は桜の花がいっせいに散っているのが美事でねえ…、その光景に見とれながら歩いていたらいつの間にか帰って来ていたというわけさ」

私はなかなか長沙禅師のようになれません。何か一つのことが気になったら、そのことばかりになってしまって、他の事に気がまわらなくなってしまいがちです。芳草のかおりも花吹雪の光景も感じられなくなってしまいます。

男性はだいたい私のような頭脳を持っていますね。一つのことに集中して、他が見えないのです。女性はそうではないようですね。同時に複数の用事を並行してこなしてゆけるようです。全体に気を配ることに秀でた頭脳を持っているのですね。

現在は「分離の時代」ですから、男性的な頭脳を持った人の方が有利になっていますが、これから「融合の時代」に入ってゆくので、女性的な全体を見通せる頭脳を持った人が次第に活躍するようになるでしょう。

女性が参加する会議は長くなるという方もいますが、そうではなくて、男性は結論を急ぎ、女性は話し合いながらお互いのコンセンサスを醸成しようと図っているのだと思います。男性は歳を取ると生命エネルギーが不足するようになるのでせっかちになります。早く結論を出したくて仕方なくなるのです。私も年寄りになったので、そのお気持はとてもよく分かります。

千手観音さまは、全身に眼があり、無数の手が持っておられます。沢庵禅師は「もし千手観音が、一つの手に意識が集中して留まってしまったら、他の999本の手は役に立たないだろう。どこにも意識を停滞させないから、必要に応じて必要な手立てが取れるのだよ」と言っておられます。

若い頃の私なら、『よし散歩しよう!』と決心して、『○○に行こう!』と歩き出します。そして、○○に着くまでわき目もふらずに歩いてゆきます。寄り道なんてとんでもない…。ずいぶんゆとりのない、貧しい生活をおくっていたものですね。もっと楽に生きられるんだよと若き大敬君に教えてあげたいです。

もっともその当時、そのように忠告されても、きっと聞く耳を持たなかったでしょうね。魂の進化にはやはりながい時間が必要なのです。

しかし、この必要であった長い時間こそが、このように皆さんに文章を書く時の「貴重な元手」になっているのですから、人生にムダなものは一つもないということですね。

長沙さんは、「今・ココ」に次々現われる光景に心を奪われて一体となっていただけです。そして、どの「今・ココ」にも『時よ止まれ!』などと引っかからず、サラサラと「今・ココ」・「今・ココ」を流していっただけです。

そうしたら、いつの間にか道場に帰って来ていました。イノチはそのように出来ているのです。「今・ココ」・「今・ココ」と生きてゆけば、おのずとイノチにとって最適・最善の経路をたどってゴールに到達出来るのです。

若い頃に私がなぜ貧しい生活をおくらねばならなかったのかというと、アタマだけを過度に信頼して、常にアタマでイノチをコントロールしようとしていたからだと思います。

アタマなんて、大した道具ではありません。一寸先のことも分からないお粗末さです。でも、イノチは、あなたの魂の進化の全過程を把握していて、必要なものを必要な時に次々取り出してはあなたを導いてくれます。

私はある修行段階で、アタマとカラダが分離してしまった時期がありました。

アタマでカラダを支配することをやめて、カラダに勝手に振舞うことを許したのです。

するとカラダさんはトコトコ歩き始めます。アタマ君はカラダさんの行動を観察するだけで、コントロールしようとしません。

カラダさんは、イヌを散歩させる時のように、アッチにウロウロ、コッチにウロウロ動きまわります。時には停まってしまって、ジッと何十分も動かずにアタマ君を途方に暮れさせたりします。

グルグル同じところを何度も回ったりして、アタマ君は『それはないよ。まわりの人が「おかしな人がいるよ」と笑っているじゃないか』と恥ずかしがっていたりしています。

突然、後ろ向きに歩き始めたりします。でも、何かにぶつかるということはありません。本当はカラダ全身が眼で全身が耳なのですね。

突然、横っ飛びします。すると猛スピードで車が後ろから、あわやギリギリで追い抜いてゆきました。アタマ君はまったく気付きませんでしたが、カラダさんは身の危険をあらかじめ察知していたのですね。 
 
アタマ君がカラダさんに『○○君に会いたい』と告げます。すると、カラダさんは歩き始めます。どこを目指して歩いているのかアタマ君にはちっとも分かりません。すると歩いている道の前方に○○君がこっちに向って歩いて来るんです。本当にびっくりしました。

このように、カラダさんは私が思っていた以上に素晴らしい能力を持っています。そのことをこれらの一連の実験で確認することが出来ました。

それからは、アタマ君が大きな顔をして、カラダさんを下に見て、支配して思うままに動かそうなんていう越権行為はやめられるようになりました。

アタマも実はカラダの一部で、共にイノチを構成する大切なメンバーなのですから、和解して互いの役割を邪魔しないように、協調してはたらくようにならなければなりませんね。

アタマ君の役割は、イノチが進むべき方向を決定すること、そのために必要なデータを集めることです。そして、カラダさんの役割はアタマ君が定めた目標実現に向けて最適な筋道でイノチを進ませる実行部隊です。

たとえば、野球選手は、打席に入る前に投手のデータを調べ、ヒットを打つという目標を定めます。そこまではアタマ君の仕事です。

そのように、目標を定め、データを与えてやると、カラダさんはその目標を達成するための最良の打撃をしてくれます。バッターボックスに入った後は、カラダさんの働きに任せるべきで、アタマ君がカラダさんに干渉してはいけないのです。

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